29.97と30.0
フレームレートの設定では、秒間30フレームに向けた「29.97」と「30」があります。カメラやソフトウエアなど、フレームレート設定でよく見かけるアレです。なぜ30fpsなのに、29.97という人間から見ると半端な数値が登場するのでしょうか。実はこれが生まれたのは、一回目の東京オリンピックの頃まで遡ります。
昭和39年、1964年に、東京でオリンピックが開催されました。すでにテレビ放送は開始されていましたが、白黒放送でした。オリンピックに向けて、総天然色で映像を楽しめるカラー放送が本格化していきます。関東ではテレビ放送の電波は、東京タワーから発していました。白黒放送がすでに各局で電波を使っていたのですが、カラー放送が始まるからと言って、さらに別の電波を使うわけにはいきません。単一の電波を使って、白黒とカラーの2種類の放送を送信する必要がありました。カラー放送が始まると、電波の中身はカラー放送向けで、それを受信する家庭では白黒テレビとカラーテレビの2種類の視聴環境があったわけです。
カラー放送を始めることで、テレビ信号の周波数をわずかにズラせることが必要になりました。白黒放送では問題ならなかったことですが、カラーになると白黒信号にカラー成分を重ねる処理を行います。この際に音声部分でノイズが発生することが判明しました。それを解決するために、少しだけ周波数をズラせたのです。
30Hzに対して、「1000/1001」を掛けてみてください。スマホの計算機を使ってもいいです。答えは、「29.97002997002997」になります。さらにこれ以降小数点以下には数字が続く循環小数です。30Hzにかけた「1000/1001」は先に述べた、カラー放送のためにずらした分に相当します。
今から考えると、とても安直でその場限りの対策のように思えます。それが60年以上もテレビ放送に影響を与えるとは、当時の技術者は想像もしてなかったのではないかと思います。